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以前同僚だったこともあるこの人(アフリカ出身・女性・人事アシスタント)とは、仕事で時折話す機会がありました。経験豊かでユーモアがあり、同僚を思いやる正義感の強さが印象的でした。

彼女は私の話を聞くととても喜び、自分も同じことを考えていると言いました。スイス永住権を獲得できるだけの滞在年数に達していないので、それを待っているとのことでした。

「自分が今生きているということがすごいことだと思うようになった」と私が言うと、「わかるわ」と言いながら窓のほうを向き、木々の緑を指差しました。「こういうものすべて、信じられないほどの奇跡よ。」

見えていなかったものが見えるようになったと思うと言う私に、「気づきね」と彼女は満面の笑みを浮かべて言いました。その心境を『圧倒的な感謝』と表現すると、まさにそれよ、という表情で大きくうなずきながら彼女も言いました。「そう、感謝よね。」

彼女は、若い頃世界中を旅して様々な文化に触れた話をしてくれました。そして、人と直接関われる立場にいたいから、プロフェッショナルのポストを勧められても断ってきたのだと言いました。どういう意味だろうと思って聞いていると、こう続けました。

「立場が上になると、多くの人と対等に話すことができなくなるわよね。私は出世には興味がないの。日々の仕事を通じて、実際に人と話をすることをしたいのよ。」

私は彼女の言わんとすることが理解できました。そして、学歴や職歴が基準を満たしているにも関わらず昇進を断ってアシスタントの仕事を選んできた彼女を、驚きの目で見つめました。

厚い上下関係があり、その職位の高さによって相手を判断したり態度を変えるという環境に、私は強い違和感を抱いていました。その話をしながら、「自分も知らずにそういう(相手の職位によって態度を変えるような)ことをしたかもしれないと思う」と言うと、彼女は「そうは思わないわよ」と言ってくれました。

「以前はこうではなかったのよ」と、勤続の長い彼女は言いました。かつてはもっと平坦だった組織構造が、多くの組織改革を経て変わったとのことでした。「以前はこうではなかった」とは、ほかの人からも何度か聞いたことがある言葉でした。

発見と共感にあふれたこの対話が嬉しくて、私は彼女に言いました。「話してみると分かるものよね。自分だけがこうだと思って悩むけど、ほかの人も同じだということに気づかないだけなのよね。」

すると彼女は言いました。

「私が離婚したときはいろいろ大変だったんだけど、娘はそれを私とは話せないと思ったらしくて、幼稚園で話していたみたいなの。私が娘を迎えに行って車の中で待っていたら、私も離婚しようと思ってるんですって知らない人が話しかけてくるのよ。娘の友達のお母さんだったの。次は幼稚園の先生も同じことを言ってくるのよ。そういう人たちが何人もいたのよ。私の知らないところで、私の経験を聞いて勇気づけられた人たちが。」

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