送別会の日が近づいてくると私は、スピーチではどんなことを言おうかと通勤中に考えるようになりました。ただその場を取り繕うための表面的なものではなく、嘘のない思いが伝わるようなスピーチをしたいと考えていました。
灰色の曇り空が続く日々でしたが、歩きながら空を見上げていろいろなフレーズを思い浮かべました。そして、頭の中で繰り返したり編集したりを数日続けるうちに、本当に必要なことだけが残っていくようになりました。
当日、会の準備がされて、少しずつ人が集まってきました。私は、歓迎会や送別会があるたびに準備や後片付けをするのがいつも同じ人たちであることに気づいていて、その人たちにお礼を言いたいと思っていました。
2人の同僚が、「スピーチは大丈夫なの?」と私に聞きました。ちゃんと準備できているのか、心配だったのかもしれません。私は、「大丈夫。本当に思っていることしか言わないつもり」と答えました。
都合がつかず来られなかった人も多く、その場に私が望む人たちが全員揃っていたわけではありませんでしたが、私は、その場にいる人たちとその瞬間を共有している縁を感じました。そして、その人たちに伝わるようにと思いを込めて、始めました。
「まず最初に、ここへ来るために時間を割いてくださったことにお礼申し上げます。
そして、この会の準備に尽力してくれた人たちに、私個人からと、私たち全員を代表して、お礼申し上げます。いつもありがとうございます。
既に多くの方にお話しましたように、私は、昨年3月に日本で起こった大災害からの復興への努力に参加するつもりです。連絡を取り合っている活動もいくつかありますが、時間をかけて模索してみたいなとも思っています。
私は導かれている方向に行っていると思うので、そういう意味で、このことは私自身のためにとても幸せなことだと思っています。
私の心が今、自然に、自分にとって恩のある国に帰っていくことはいいことです。そして私は、既に行動している多くの人たちと共に、自分の分の貢献をすることを試みたいと思います。
これまでいただいた経験と機会に感謝しています。そして、自分が極めて幸運だったこともわかっています。
今この時点では、もし私に何らかの才能や意欲があるのなら、それをこの方向に使うというのが私の個人的な願いです。自分のハートにある大切なことです。
私にとって本当に貴重なのは、あなた方多くと個人的に思いを交わしたことです。それは今後も私の心の中に残ります。
このチャンスに恵まれたという事実が、私の未来への資産です。ただ単純に、あなたと知り合えたということです。
私はあなたに、あなた方全員に、最善のことがありますようにと願っています。
そして私からも、もしお願いしたいことがあるとすれば、
今後、何か日本のことを目にすることがあれば — 例えばテレビを見ているときとか仕事上の何かで — そのときは、かつての同僚を思い出して、応援の気持ちを送ってもらえたらと思います。
私はそれを、海を隔てた場所でも感じとり、
私が必要とする力を与えてくれるだろうと思うからです。」
帰り道は、久々に青空が出ていました。