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部局長に呼ばれて彼のオフィスに行くと、彼がこう言いました。

「退職日を、4月初めではなく4月末にしてもらえないだろうか。」

これは既に上司からも言われていたことでした。4月前半に復活祭休暇と重ねて有給休暇を入れている同僚が多かったことと、後任の配属に時間を要する可能性があることが背景にありました。

私は即答できませんでした。もともと「待ちたくない」という気持ちが強かったことと、三ヶ月事前通知は規則通りであり、それだけ時間があれば必要な調整は可能なはずだという思いもありました。

考えてみてほしい、と言われて私はその場を後にしました。私の中に答は見えていませんでした。

答がわからないと言えば、年金の問題がありました。年金の受け取り方に選択肢があったのですが、どれを選ぶのか決めかねていたのです。

そんなとき、私は同僚(アフリカ出身・男性・財務アシスタント)と昼食を共にしました。

彼は、テレビで日本の被災地に関する特集を見たと話し、「君のことを考えたんだ」と言いました。仕事を辞めてボランティアに来ている人たちのことが出てきたと言い、「そういう人たちがいるんだね」と私に語りかけました。

私はその番組を見ませんでしたが、「そうだよ。たくさんいるんだよ」と応えました。休暇をとってボランティアに行った東京の友人が、仕事を辞めて来た人たちを意外に多く見たと言っていたからです。

「そうなのか」と言いながら彼は、「いやぁ、君のことを考えていたんだよ」と繰り返しました。

すると彼が「君は、年金はどうするの」と聞いてきたので、私は、「そうなんだよね。自分で決めなければならないんだけど」と言いました。彼は、こうすればいいんじゃないか、というような自分の考えを言ってくれました。

そして、そうしようと自分でも思って気持ちがすっきりしたとき、自分では出せなかった答が向こうからやってきたように感じました。

その日の帰りに、バスの中で、「それにしてもなぜ彼は私の年金の心配をしていたのだろう」と考えていました。テレビの特集を見て心を動かされ、本当に私の身になって考えたからなのかもしれません。

バスが十字路を大きく左に曲がるとき、窓のほうを向くと、オレンジ色っぽい街灯の光に包まれた街並が目に入りました。

その瞬間、退職日を延長するという要請を受け入れようと思いました。そうするのがいいとはっきりわかり、穏やかな気持ちになったのです。

自分を思い、助けてくれる人がいる。自分も同じようにするのがいい。4月後半に何かいいことでもあるかもしれない — と考えながら、答が向こうからやってきたと思いました。

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